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第71回 コマユミのブローチ

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  すっかり雪に覆われた、ともすれば味気なくも映る白い森で、
  はなやかな紅い彩りを見つけました。
  コマユミの実です。
  熟したのはもちろん秋のことですが、
  真冬のいまでも枝先にしっかりぶらさがっているものがあります。
  その鮮やかな朱色は、冬の森のブローチのようです。
  枯淡の季節、それは地味な衣装となった森のなかで、
  ひときわ優雅なワン・ポイントといった感じです。
  ごくひかえめな、上品なおしゃれといった印象です。
  雪面から頭だけ出した低木の枝先にある、ごく小さなものなので、
  つい見過ごされがちですけれど、目にさえ留まれば、
  それは森の底にひろがる白を背景に、とてもとても目を引きます。


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  コマユミは「小真弓」と書きます。
  字義的には、小型のマユミという意味です。
  なので、マユミ(真弓)の木の小型版なんだろうと
  そう思っていた頃がありました。
  実際、マユミという木は大きくなると、かなり太い高木になりますが、
  コマユミはその名の通り、
  せいぜい1メートルから2メートルくらいの低木です。

  ところがコマユミはマユミではなくて、
  実はニシキギ(錦木)の姉妹なのですね。
  似た仲間にはツリバナ(吊花)もありますが、
  ニシキギもマユミもツリバナも、
  いずれも同じニシキギ科の樹木です。

  共通しているのは、初夏に咲く、ごく小さな花は
  あまり目立つことがないこと。
  そして秋も深まる頃、鮮紅色の実を吊り下げること──でしょう。
  豆の殻が弾けたようにぱかりと二ツに裂けて現れる、
  橙赤色の実のぶらさがりを目にして初めて、
  アア、ここにもあったんだなあ、と
  ようやく認識することもあるくらいです。


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  コマユミはニシキギの姉妹と紹介しました。
  実際、樹木図鑑をひいてみると、
  コマユミはたいていニシキギの項に併記されています。
  その違いは、茎にコルク質の翼(よく)が発達しているものがニシキギで、
  その翼がないものがコマユミというふうに記されています。
  翼とは、枝や茎に生えた板状の突起物で、ヒレみたいなものです。

  コマユミというのは、
  いうならばニシキギの別バージョンみたいなものなのです。
  翼があればニシキギ、なければコマユミ。
  翼がない、という立派な違いがあるのなら、そりゃ違う種類だろう、と
  シロウト考えではついそう思ったりもするわけですが、
  コマユミの学名はニシキギと一緒です。

  ただ、後に「品種」を表す「f」が付いています。
  (品種というのは、些細な変異を持った個体のことです)
  ちなみに学名の意味は「翼のある評判の良い(もの)」で、
  やはり、その翼の存在が特徴とされています。
  評判が良い、とはニシキギの名の由来ともなっている、
  錦のように美しいとされる秋の紅葉のことでしょうか。

  ともあれ、コマユミとニシキギは、非常に近い仲間なので、
  厳密には区別する必要なんかないんだ、という考えもあるようです。
  つまり広義では、コマユミはニシキギと一緒だ、
  そう言ってしまってもよい、ということですね。
  実際、ニシキギには翼が発達しないものも多いですし、
  中途半端に翼があって、どちらかよくわからないような場合もあります。

  なので、図鑑には「翼のないものをコマユミと呼ぶ場合がある」
  というような書き方をしているものもあります。
  それに、庭木としてよく植えられている翼を持ったニシキギは、
  翼が発達する個体をわざわざ選んで、
  それを人為的に増やしたものである、ともいわれます。
  そちらの方が造形的にユニークだからでしょう。
  こうなると、なんだかニシキギの方が
  逆に園芸品種みたいな感じもしてきますね。

  私は個人的には、変種だの品種だのという分類に
  さほど興味がないクチです。
  メンドーくさいなどというと叱られてしまいそうですが、
  やっぱりシンプルがベスト。
  なので「ニシキギとコマユミは一緒だ」というような意見には、
  やすやすと与(くみ)する方なのでありますが、
  ところがこれまた個人的に、
  私はコマユミという名前のひびきが大好きなのです。
  こういう名称は、きっと樹木に明るくはない方に、
  マユミという別の木との混同のおそれを誘うなと思いつつも、
  やはりニシキギとコマユミを「姉妹」として
  分け愛でたいと思ってしまうのです。


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  さて、冬の森の愛らしいアクセサリーであるコマユミの実。
  その楕円形のカタチも、なんとなくおしゃれっぽいですね。
  この紅いサインでコマユミらニシキギ科の樹木は、
  タネを森のあちこちに撒いてもらうために
  野鳥を呼んでいるのだ、とされています。

  ツグミやヒヨドリ、ジョウビタキなどのほか、カラ類やエナガ、
  それに小型のキツツキであるコゲラなども口にするそうですが、
  少なくともこの実を撮影した蔦の森では、
  あまり積極的に鳥たちの糧となっているようにも思えませんで、
  だからいつまでも枝先に残っているのだろうかと思ったりもします。

  それはともかく、この色を見ていると
  私たちもつい口に入れてみたくなりますね。
  けれど毒性があって、食べられせん。
  下痢や運動障害を起こすといわれます。

  ただ、その毒性を利用して、
  人とコマユミは古くからのつきあいがありました。
  かわいらしい名前とは逆に、
  この木にはなんとシラミコロシ(虱殺し)という別称があるのです。
  その名の通り、頭髪のシラミ駆除薬として知られていたのです。
  ちょっと意外ですね。
  実を細かく砕いて、水や油でよく練ったものを頭髪に塗って、
  シラミを追い出したといいます。
  コマユミのブローチは、森の装飾的価値のみならず、
  その実利的価値も大いに認められていたというわけです。

  もちろんニシキギやツリバナの実も同様に用いられたといいます。
  面白いのは、このシラミコロシという別称は、
  地方によってはニガキやヘクソカズラ、
  そしてサイカチなどを指すものでもあったことで、
  こうした樹木の実を利用した天然の民間薬は、
  ニシキギ科に限らず、いろいろあったことがわかります。

  そんなことを頭に浮かべながら
  冬の森でコマユミの紅い実と向きあっておりますと、
  森の素敵なブローチも、なんだか呪術的な存在にも見えてくるのですから、
  面白いものです。不思議なものです。


(写真・文/河井大輔)