web ネイチャーランブリング 第62回 四十雀と五十雀

 自然の魅力と不思議を楽しむ ゆったりぶらぶら森散策 
ノースビレッジのウェブネイチャーツアー


HOME > column > Column-62

Web ネイチャーランブリング

第62回 四十雀と五十雀

読みにくい場合はこちらで調整下さい
印刷用表示 |テキストサイズ 小 |中 |大 |

62nd-img.png

title62-1.gif

  冬の初めは、バードウオッチングをはじめるのに最適なシーズンです。
  「え?」と思われる方も、いらっしゃるでしょうか。
  確かバードウィークというのも5月だったし、
  野鳥といえば、フツウ春から夏なのでは?
  そう思う方は少なくないと思います。
  あとは、せいぜい渡り鳥を見る秋くらいかな、と。

  冬には、ちゃんと冬の鳥たちがいるのですが、
  しかしあんまり目立ちません。
  湖沼海岸などの水鳥(カモ類など)をのぞけば、
  森の鳥はひっそりと暮らしています。

  カラフルな鳥たちがいろいろと見られて、
  きれいなさえずりを楽しめるという点では、
  やはり春から夏にかけてがベストシーズンです。
  森も湿原も、鳥の歌でにぎやかです。

  ただ、緑の森で鳥を見るというのは、
  こと初心者には結構とっつきにくいものです。
  なぜなら生い茂る葉っぱがジャマをして、
  目当ての鳥を見つけづらいからです。
  葉っぱがすべて落ちてしまい、
  ぐんと見通しのよくなった広葉樹の森ならば、
  慣れない方でも、わりと容易に鳥の姿を見つけることができます。
  ちょこまか動きまわる小鳥でも、
  あせらずに目で追いかけることができるでしょう。


title62-2.gif

  冬の森に訪れる渡り鳥は、
  北方圏から厳しい寒さを避けるために南下してきたもの。
  代表的な種類ではツグミであるとか、
  アトリであるとか、レンジャクであるとか。
  でも冬の森で、これらの鳥にしょっちゅう出逢えるかというと、
  実はそうでもありません。
  たいてい群れをつくり、広い範囲を移動しているので、
  タイミングを外すと見られません。

  その点、いわゆる「森の常連さん」たちは、
  おおむねいつでも目にすることができます。
  一年中、同じ森に棲んでいる鳥たちです。
  彼らは渡り鳥ではなく「留鳥」と呼ばれます。
  実際には、年中同じ「個体」が同じエリアに棲んでいるのかというと、
  そうではない場合も多いのですが、
  ここでいう留鳥とは四季を通じて見られる「種類」のことです。

  「森の常連さん」とは具体的には、
  シジュウカラの仲間、そしてキツツキの仲間です。
  シジュウカラ、ヤマガラ、コガラ、ヒガラたちは、
  ひとまとめに「カラ類」と呼ばれます。

  冬の森では、この4種類がそれぞれ入り混じった、
  混群(こんぐん)をつくっています。
  一方、キツツキの仲間には、
  アカゲラ、アオゲラ、コゲラ、オオアカゲラがいます。
  クマゲラという真ッ黒で大きなものもいますが、
  こちらはまず目にすることはありません。
  いずれも名前の最後に「ゲラ」が付きますが、
  これは「ケラ」が濁ったものです。
  ですが「カラ類」に対して「ケラ類」とはあまり呼ばれません。
  素直にキツツキ類というのが一般的です。

  キツツキであるアカゲラとコゲラは、
  しばしばカラ類の混群にも参加していることがあります。
  ここに、さらにゴジュウカラやエナガ、
  キバシリといった他の種類も加わってきて、
  カラ類の混群はますます大きく、
  そしてたいそうにぎやかになっていきます。
  彼らは一緒に冬の森をゆっくりと巡回しています。
  そしてさほど人を警戒しません。
  森のバードウオッチングの初歩の練習対象として、
  これくらい最適な相手は他におりません。


title62-3.gif

  私は小学生だった頃、
  学校の図書室でシシジュウカラの写真を初めて目にしました。
  小さな姿に凝縮された、気品ある優雅さと愛らしさ。
  放課後の、とても黴臭い図書室で、
  大袈裟にいえば、ちょっとした衝撃を受けました。
  「こんなにカッコよくてかわいい鳥がいるんなら、いちど見てみたいなあ」
  そう思いました。

  でも、どこかの遠い山の森に行かなければ、
  見られないものだと思っていたのです。
  ところが町中の庭や公園の林にもいることを知って、拍子抜けしました。
  海岸の林から住宅地、そして山のブナ林まで、
  彼らの棲むエリアはとても広いのです。
  そのうち、他の仲間も見たくなってきました。
  ヤマガラ、ヒガラ、コガラは森の鳥でした。

  やがてゴジュウカラに憧れました。
  シジュウカラとは、また違ったダンディズムがあり、
  こちらは東京周辺ではあまり見られなかったのです。

  はじめは、同じ「カラ」という名前ですし、
  「四十」と「五十」というくらいなのだから、
  親戚なんだろうと思っていました。
  (そして、なんてテキトーな名前のつけかたなんだろうか、とも)。

  ところが違う仲間と知って、意外。
  では漢字で書くところの「四十雀」と「五十雀」とは、
  こりゃいったいどういう意味なんだろうか?
  そんな根本的なギモンを抱えました。

  ある日、専門家然とした鳥をよく知るオトナのひとりに、
  勢い込んで尋ねてみました。
  すると「始終カラカラ鳴いているからサ」と
  駄洒落みたいなことをいわれ、がっかりしました。
  実物を探し歩くのに夢中になり、
  そのうち名称のことは気にとめなくなりましたが、
  年をとってから疑問が再燃してしまいました。
  かつては憧れの鳥であったゴジュウカラも、
  いまや奥入瀬の森では、シジュウカラ以上の顔なじみのひとつです。


title62-4.gif

  「四十雀」の名の由来には諸説あります。
  雀は、種スズメではなく、小鳥一般を示す言葉です。
  たくさん群れるから(四十は多数を表す)とか、
  ジュクジュクという鳴声を表したものとか。ユニークなものでは
  「シジュウカラ一羽はスズメ四十羽分の値段だった」というものまで。
  飼い鳥としては、スズメより美しく、
  魅力的であったということを意味したものなのでしょうか。

  それでは五十雀からは?
  ところが、これがどうにもはっきりしません。
  「スズメ五十羽と……」では、いくらなんでもあんまりでしょう。
  「四十雀に似てるから」などといういいかげんなのもありますが、
  分類では別のグループ。

  確かに両者の姿形は明らかに異なっています。
  動き方も、かなり違います。
  また、木を逆さまに降りられる生態は、ゴジュウカラに独自のものです。
  「木廻(きまわり)」とか「逆鉾(さかほこ)」など、
  行動をよく表した異名もありますけれども、
  やはりこの鳥の正しい名は、江戸のむかしからあくまでも「五十雀」でした。

  安部直哉さんという方の書かれた鳥の名前に関する本に、
  ゴジュウカラの語源としてちょっと面白い説が紹介されています。
  むかしは四十歳で初老、五十歳で老人であったので、
  ゴジュウカラの青みがかったグレーの羽を
  老人に見立てたゆえ──というものです。
  要するに「じじむさい」鳥、もとい、落ち着いたダンディズム、
  とでもいうべきなのでしょう。

  ちなみにこの方の説によれば、カラ類の「カラ」は
  「同胞=はらから」に由来するもので、
  要するに「同じ仲間」を意味する言葉であろう、ということです。
  説得力がありますね。


title62-5.gif

  むずかしやどれが四十雀五十雀

  これは、一茶が詠んだ句です。
  はじめ、意味がまるでつかめなませんでした。
  昔日の俳人の方が自然観察には長けていたはずなのに……とさえ思い、
  訝ってしまいました。

  ところが冬になると、カラの仲間は種の境を越えて入り混じり、
  一緒に仲よく群れを作って森の中を飛びまわります。
  そんな彼らを眺めるうち、かの「四十雀」「五十雀」の由来も、
  要するに「なかよしこよし」ということを表したものだったのかなあ、と
  ふと思いました。

  すると、鳥たちの群れのなかのどれがどれ、どれがどれ、ということも
  次第になくなり、だんだんひとつにとけあっていくのを見て、
  ああ、なるほど、一茶が詠んだのはこのことだったのかな、と
  ようやく得心した思いでいるのです。


(写真・文/河井大輔)