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第47回 サシバゆく

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  十和田湖外輪山の上空を、一羽のサシバが悠々と舞っていました。
  すがすがしい初秋の青空のもと、
  気持ち良さそうにゆっくりと旋回しています。
  サシバは中型の猛禽類で、
   南西諸島や東アジアなどで冬を越す渡り鳥です。

  毎年、初夏の頃になると
  国内各地の里山に渡ってきて、子育てをしています。
  ただしここ青森では、
  過去にいちど弘前での繁殖例があるのみとなっています。
  なので、サシバの繁殖地の北限は、
  日本海側では秋田、太平洋側で岩手となっているのですが、
  その詳しい実態は、まだあまり明らかにされていません。
  たとえば津軽地方の里山などには、もっといてもよさそうな気もします。

  かつて私は十和田湖の秋田側で、
  鳴きあいながら飛んでいる2羽のサシバを観察したことがあるのですが、
  残念ながら繁殖の確認までには至りませんでした。

  サシバが2 羽で飛翔している場合、
  両羽とも尾を広げて旋回していれば「渡り」、
  1羽が尾を広げ、もう1羽が尾を閉じて旋回していれば、
  それはなわばりのヌシが侵入してきた個体を追い払おうとしているところ。
  そして、両羽が共に尾を閉じて舞っていれば、
  雌雄ペアの可能性が高い──そんな興味深い報告があります。

  私の見た2羽は、どちらも尾を閉じたまま、
  鳴き交わしながらくるくると上空を旋回をしていました。
  なので、あるいはもしかしたら、と思ってしまった出来事でした。

  なお、津軽海峡を越えた北海道への渡来記録も
  あることはあるようなのですが、
  やはり繁殖については未確認のようです。
  北海道では通常、目にする機会はありません。


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  十和田湖を囲む森の上空を飛んでいたサシバは、
  はたして湖の近隣で繁殖した個体だったのでしょうか。
  それとも、ただ飛んでいただけの個体だったのでしょうか。

  サシバは、谷津田(やつだ)とか谷戸(やと)と呼ばれる、
  丘陵の水田を好みます。
  田んぼと雑木林(またはアカマツ林やスギ林)がセットになった、
  谷あいの環境です。
  近年では、そうした里山景観の減少により、
  渡来数が減っているともいわれます。
  岩手・秋田の両県においても
  「準絶滅危惧種」などに指定されているようですが、
  逆に、以前から変わっていないとする見方もあるようです。
  こちらも実態不明です。

  サシバがそのすみかを里山の谷津田環境としているのは、
  彼らの食生活に関係があります。
  それは主にカエルなどの両生類やヘビなどの爬虫類、
  そして各種の昆虫およびネズミなどの小型哺乳類を
  捕えて食べている猛禽類であるからです。

  岩手県は北上盆地東部にあたる花巻市郊外では、
  そんなサシバの好む里山が、まだ比較的多くみられる地域です。
  ここで実施された生態調査の報告によれば、
  サシバは5月下旬から6月中旬くらいまでは、
  水田周辺を主としてカエルやヘビを、
  盛夏には丘の林の中へと捕食場所を移し、
  そこで樹林性のカエルや昆虫類などを食べている、ということです。
  サシバというタカが、
  里山環境に大きく依存していることがわかります。

  ひるがえって、ブナの森の広がる
  ここ八甲田山麓の環境を見てみると、
  サシバの生息に適していると思われる環境が、
  ほとんどないことに気づきます。
  実際、ノスリやハチクマ、クマタカの姿は見かけても、
  サシバの確認はかなり稀です。

  ただ十和田西部や七戸、また黒石から平賀、碇ヶ関、
  そして小坂あたりの丘陵地には、少数ながらも夏を過ごしたサシバが、
  あるいはいてもおかしくはないような気もします。


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  十和田湖の外輪山上空で出会ったサシバは、
  南へ向かって渡っていきました。
  はるか遠く沖縄方面へ、
  もしくはさらに南方へと長い長い旅をしていくのでしょう。

  中部太平洋側、渥美半島先端の伊良湖(いらこ)岬では、
  秋の渡りのサシバがいったん集結することで知られています。
  渦を巻くように空の高みへと舞い上がり、
  滑るように海を越えていくさまは圧巻です。

  こうした「鷹の渡り」を目的に、
  全国から熱心なバード・ウオッチャーが集まります。
  かつて私も見物に出かけたことがありました。
  それは実に素晴らしい風物詩でしたが、
  北国の蒼穹(そうきゅう)に声を響かせ、
  ただ一羽きり、ひっそりと南へ去っていく
  十和田湖のサシバも、またなんともいえず魅力的でした。
  大好きな芭蕉の句を思い浮かべつつ、見送りました。

  「鷹ひとつ 見つけてうれし いらご崎」

(写真・文/河井大輔)