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第45回 タマゴタケ
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生来のものぐさものゆえか、
これまでキノコ採りに情熱を燃やしたことがありません。
ただ森をぶらぶらしていると、
期せずして「食べられるキノコ」に出逢います。
地味な色あいをしていて、
似たような風貌のたくさんあるものには、
有毒種との混同が恐いため、もちろん手を出したりはしませんが、
素人目にも間違えようのないくらい、
明らかに「これは」と判るものがあります。
それがまだ新しいものであったりした場合には、
幸運に感謝して、頂いていきます。
私の場合、その代表がタマゴタケです。
朱色の傘を持った、とても美しいきのこです。
タマゴタケは、
夏のさかりから秋にかけ、ブナの森の樹下に姿を見せます。
地上に姿を現した時、
すなわちまだ幼菌の時には、白い外皮に覆われています。
そのさまが、まるでタマゴのようなので、
このような名前がついたのでしょう。
個人的な印象では、
それはタマゴというよりも、繭(まゆ)という感じなのですが、
白い膜の上部が開き、やや橙色がかった目にも鮮やかな赤い傘が現われ、
それが徐々に開いていくさまは、
やはり「卵」からの「誕生」を想わせます。
気をつけて歩いてみると、
さまざまな成長段階のものが見つかることもあります。
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最初にタマゴタケを目にした時には、
その色彩がどうしても毒々しく見えてしまい、
正直なところ、とても食べられるキノコであるとは思えませんでした。
すらりとした印象の柄は、
黄色に帯赤色のだんだら模様というデザインですし、
なによりも艶めいた赤や朱色が、
毒菌に色あり、という巷の言説にぴったり合致。
もちろん、巷間のキノコの食毒識別法は
ほとんど迷信に近いものなのですが、それにしても、です。
著名な先達のすすめで、食べてみる気にはなってみたものの、
「ホントに大丈夫ですか?」と何度も念を押す私に、
名人は笑いながら太鼓判。
こうなれば食べぬわけにはいきません。
おそるおそる、家へと持ち帰ってみました。
予想通り、妻は「それ」をひとめ見たとたん、
完全に疑いのマナザシであります。
その視線をどうにか押さえ、
どきどきしながらもバター焼きと味噌汁に入れて食してみたところ、
これがまたけっこうオツな味なのでありました。
こってりとした風味があります。
そばでしばらく様子を見ていても、
私が一向に白目をむいたり泡を吹いたり笑ったり、
突然ひっくりかえったりもしないので、
やがてかたわらの妻もおっかなびっくり口にしはじめました。
すぐに意外な顔をして、ぱくぱく運びだしました。
あっぱれタマゴタケ、であります。
日本ではこのキノコを食べる習慣があまりないようなのですが、
知る人ぞ知る名菌で、
ちょっとキノコを知る人の間では有名な存在なのです。
同属のセイヨウタマゴタケの学名を
「アマニタ・カエサレア」というのですが、
アマニタとは「テングタケ属」、
カエサレラは「帝王」という意味です。
英名では「カエサル(カイザー)のマッシュルーム」
すなわち「帝王のキノコ」です。
カエサルとは、
もちろんガイウス・ユリウス・カエサル(Gaius Julius Caesar)、
英語読みでいう「ジュリアス・シーザー」のこと。
かの初代ローマ皇帝ですね。
なんとも凄い名称です。
欧米ではそれだけの価値ある優秀な食菌なのでしょう。
同じくローマ皇帝であった、かの暴君ネロが
好んで食したがゆえの学名であるとか、
またロシアの皇帝が
タマゴタケとベニテングタケを誤食して
中毒死したとかのエピソードもあるそうです。
どうも、タマゴタケというキノコは皇帝に縁のある菌類のようです。
毒菌であるベニテングダケとよく似ているといわれますが、
そちらの柄は白いので、慣れればすぐに見分けることができます。
傘の上の白いイボの有無もポイントです。
なお日本のタマゴタケは、
かつては「アマニタ・カエサレア」と同種とされていたのですが、
近年の研究により、現在では別の学名となっています。
分類学的な違いはともかく、味の方にどれだけの違いがあるのか、
それはちょっとわかりません。
いずれにせよタマゴタケがそのデザインと味覚において、
盛夏のブナ林における特筆すべき存在であることに変わりはありません。


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