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第44回 山路杜鵑草
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エゾゼミやコエゾゼミの蝉時雨が降り注ぐ
ブナの森の山路は緑濃い装いですが、
路傍では初秋の雰囲気を漂わせた
「山路杜鵑草」が咲きはじめていました。
「山路杜鵑草」と書いて「ヤマジノホトトギス」と読みます。
ホトトギス、と呼ばれる花の仲間のひとつです。
ユリ科の植物で、
北海道から九州にかけ分布している、日本特産種です。
白地の花びらに、
濃い赤紫色の班点をたっぷりとちりばめているさまが美しく、
にょきりと直立した雄しべと雌しべの付く花の中央部分は、
まるで王冠か噴水、あるいは凝った細工の洋菓子をイメージさせる、
とても豪華なデコレーションです。
噴水状に開いた雌しべにも紅い斑が散らされ、
華やかさが演出されています。
黄白色の雄しべはゆるやかに下方へ湾曲し、
先端に花粉をつけています。
蜜を求めに来た虫が花に乗った時、
花粉が付着しやい構造になっているのです。
薄暗がりの森のそこかしこで、
ぽつぽつと浮かび上がるようにして咲いています。
そんなに珍しい花ではないのですが、
それでも見かけると、つい嬉しくなってしまいます。
花の季節は、
夏から秋(ちょうど8月〜10月くらい)までと比較的長いのですが、
比較的よく目立つようになるのは、やはり盛夏から初秋にかけてです。
なので、この花が咲き出すと、
少しずつ秋が忍び寄っているのだなあ、と感じさせられます。
あまり天気の芳しくない今夏は、
ええッ、もう咲いちゃうの? 早いなあ、という感もありましたが。
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さて「杜鵑」=ホトトギスというのは、いうまでもなく鳥の名前です。
花に明るくない方は、
カタカナ表記でのこの名称と、言葉の響きだけでは、
きっと花ではなく、野鳥の名前だと思ってしまうのではないでしょうか。
このいささか風変わりな名称は、
花の斑をホトトギスの胸の模様になぞらえたのだとされています。
でも、実際のホトトギスの胸のデザインは、斑というよりは縞模様。
その色にしても紅紫色ではなく単に黒なので、
わざわざ名を借りてたとえられるほど「似ている」わけでもありません。
ただ、そういう見方はいささか無粋という気もします。
初めてこの花を目にして、
そこから鳥のホトトギスの姿を「連想」できてしまった、
いにしえの植物学者のセンスの方を、
むしろたたえるべきなのかもしれませんね。
1本の茎に数個の花をつけます。
ひとつひとつは、ほぼ2日間ほど咲いています。
その特異なデザインで、主要なポリネーター(花粉媒介者)である
トラマルハナバチ(虎丸花蜂)というハナバチの仲間を呼び寄せます。
ヤマジノホトトギスの花の基部には、
花びらに散らされた模様よりも大きな濃紫色の斑点があります。
花を覗き込むと、それはとてもよく目立ちます。
これは「蜜標」(みつひょう)と呼ばれ、
ハナバチに「蜜があるよ」と知らせるものだといわれます。
「ハニーガイド」ともいいますが、
「みつひょう」より「みつしるべ」の方が
なんとなく、おもむきがあるような感じで、よいひびきだと思いませんか?
──ともあれ、そういう発想で考えれば、
ヤマジノホトトギスの花びらに散らされた独特の「杜鵑」模様も、
花粉を運び屋さんたちを「呼び込む」サインなのでしょう。
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一般の山菜案内書などでは、まず紹介されることがないのですが、
ホトトギスの仲間の若葉や若芽は、
なんと「山菜」として食用になるそうです。
春から初夏に採取、薄く衣をつけて天ぷら、汁の実、
また和え物やおひたし、油炒めなどでも美味ということですが、
ホトトギス類の葉には「油点」と呼ばれる
アブラ滲みのような特徴的な斑紋があるためでしょうか、
あまり美味しそうには見えません。
なので、この話を知った時には、少々意外な気がしたものでした。
もっとも、いくら個性的な花をつけるとはいえ、
れっきとしたユリ科の植物でありますから、
山菜としてよく知られるユキザサやギボウシの若葉が
すこぶる美味しいように、彼らホトトギスの仲間にしても、
食べてみれば結構イケル味なのかも知れません。
しかしながら、それほど群生しないうえ、
夏から秋にかけ目を楽しませてくれるデコレーションのことを思うと、
何もわざわざこれを採って食べなくってもなあ……などと、
ついエコヒイキしてしまいます。
一般の山菜ガイドブックにあまり登場しないのは、
きっとそのためもあるのかもしれませんね。


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