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第43回 梅花藻

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  「梅の花の藻」と書いて「バイカモ」と呼びます。
  清流に生える水草です。名の響きから、
  なんとなく「藻」の仲間と思われがちですが、
  学名ラナンキュラスという、
  キンポウゲ科キンポウゲ属というグループの山野草で、
  読んで字のごとく、
  梅に似た白い花を咲かせることから、この和名があります。
  別名を、ウメバチモ(梅鉢藻)といいます。
  ほかにウダゼリとかカワマツとも呼ばれます。

  北海道から本州にかけての広い地域──ただし清流──に分布しており、
  八甲田山麓では、蔦の森の長沼や田代平高原にあるグダリ沼に
  大きな群落が見られることで知られます。
  また、奥入瀬渓流(馬門橋)でも見られます。

  初夏から晩夏にかけてが、ちょうど花のさかりです。
  遠目には、あるいはちょっと気づきにくいかも知れません。
  が、よく見ると小さな白い花がたくさん水面に咲いているのがわかります。
  そしてすべての花が水上にあるわけでなく、水の中に浸かって
  ──つまり水中で咲いているものもあることに、気づくでしょう。
  バイカモは「沈水(ちんすい)植物」といって、
  いわば「水中花」でもあるのです。


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  浅い水中に生えるバイカモは、
  その花よりも、むしろ緑色の茎の方がよく目立ちます。
  茎の長さは数メートルにもおよぶため、
  全体がひとかたまりの房のようになります。

  透明感のある冷水の中で、流れに身をまかせ、
  下流にゆらゆらとなびいているさまは本当に美しく、
  まるで川の底に緑色のカーペットを敷きつめたようです。
  夏の季節にぴったりの、すがすがしい清涼なイメージにあふれています。

  バイカモは、根で水底に固着しています。
  紐(ひも)状の茎はたいへん華奢(きゃしゃ)で折れやすいのですが、
  その再生力は強く、条件があえば、まとまって繁茂します。
  アクアリウムに使いたくなるような美麗さを持った、
  まさに「藻」という感じの──けれど決してヌルヌルした印象のない、
  繊細な糸状の茎をそっとすくいあげてみると、
  切り絵細工のように細かな葉の間から、
  花柄(花の茎)をスッと伸ばしています。
  花が終わった後に水中で実が結実し、
  種子は秋に発芽して、翌春にまた開花します。

  そんなバイカモが、
  若葉の頃には「山菜」として食べることができると知った時には、
  ちょっと驚いてしまいました。
  また乾燥させたものは薬草として利尿剤にも使われます。

  その淡白で上品な食感は、よく「水の精」を頂くようだ、といわれます。
  北海道の東の地方では、アイヌ語でアツトリと呼ばれ、
  春から晩秋に採取されます。
  食べ方は、さっとゆでて水にさらしたものを酢の物、
  また酢味噌あえや辛しあえ、
  そして煮物やお吸い物にするといいます。
  私は残念ながらまだ試してみたことがないのですが、
  お吸い物の実としては、見た目にもとても綺麗な一品になりそうですね。


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  ある程度の流れが無いと生長しないといわれるバイカモですが、
  蔦の森の長沼のように、
  ほとんど流れのない、止水域(しすいいき)でも見られます。
  それだけ、長沼の水の温度が低く、清らかであるということでしょうか。

  実際、バイカモは水が汚れてくると、いつのまにか姿を消してしまいます。
  水質の富栄養化(ふえいようか)は、
  ときに水生植物の生長を促すこともありますが、
  植物プランクトンが大量に発生してしまうと、
  水中の光の量が不足してしまい、光合成の作用が衰えてしまうからです。
  さらには死んだプランクトンを分解するため、
  水中に溶けている酸素が大量に使われ、
  酸素の欠乏を引き起こすことになるからです。

  また、森林の伐採などで泥水が流入し、
  常時水がにごりはじめても滅んでしまいます。
  バイカモのような植物は、
  その生えている場所の「水の清冽さ」の目安となることから、
  環境指標生物(かんきょうしひょうせいぶつ)とされているのです。

  冷たい水の流れにゆらめくバイカモの房の中を、
  水浴びがてら、水中メガネをつけて覗いてみたことがあります。
  そこには、たくさんの水生昆虫や小魚の姿がありました。
  清涼なる「水の女王」は、
  そのたおやかな姿で私たちの目や舌を和ませてくれるだけでなく、
  きれいな水に生きるものたちにとっての、
  たいせつな「ゆりかご」にもなっているようです。

(写真・文/河井大輔)