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第35回 ハチクマ
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今年もまた、南国から奥入瀬の森にハチクマが渡って来ています。
この年最初の出会いは、5月の末でした。
森の上で「ピィーヨー、ピィーヨー」と甘い声がして、
はっとして見上げると、ブナの新緑の隙間から、
ゆったりと空を飛ぶ姿が目に入ってきました。
ハチクマとは、またずいぶんと変わった名前ですが、
「ハチを食べるクマタカに似たタカ類」という意味です。
クマタカについては(第7回・第8回)で御紹介しています。
英名では「オリエンタル・ハニー・バザード」といいます。
すなわち「東洋の蜂蜜ノスリ」なのですが、
日本では、のんきそうなノスリではなく、
勇壮なクマタカになぞらえた名称となっています。
なるほど一見したところ、クマタカにやや似ています。
猛禽類のカンサツを始めたばかりの頃には、
よく見間違えました。慣れてくると、遠目にも明らかな違いが
目に入ってくるものですが、
最初のうちは、まず全体の色彩の感じから判断しがちなので、
つい早とちりしてしまうのです。
ハチクマは、個体によって色彩のパターンが豊かで、
うんと白っぽいものから黒っぽいものまで、さまざまです。
また、オスとメスでもかなり違います。
初心者には、ちょっとメンドウくさい鳥ですが、
その個性的なデザインの面白さがわかってくると、
見る楽しみもまた深まってきます。
「森の忍者」と呼ばれるクマタカの名が付けられていますが、
森林潜行性の本家に較べると、ハチクマの方は、
ふらふらと森の上空に出てくることが割と少なくないので、
そのぶん目にしやすく、
またちょっとのどかな雰囲気をただよわせているあたり、
やっぱりノスリに近いような気もします。
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このタカの特徴は、なんといっても「ハチを食べる」という、
その食生活にあります。
かくも特異な嗜好を持った猛禽類は、ほかにはちょっと見当たりません。
ミツバチやコガタスズメバチなども食べますが、
いわゆる「ジバチ」と俗称されるクロスズメバチが大好物。
地中に作られた巣を、その頑丈な脚で掘り出し、
中にいる幼虫やさなぎを器用に引きずり出しては、
ばくばくと食べてしまいます。
ヒナに与える餌も同じで、採掘したハチの巣を、
そのまま自分の巣へと持ち込みます。
もちろん100%ハチ・オンリーというわけでもなく、
カエルやヘビなどの爬虫類も食べてはいますが、
ある調査では、巣に持ち込まれた餌の約6割以上がハチの巣であった
という報告もあります。
毎年5月下旬に東南アジア方面から飛来、
その後わずか1週間ほどで卵を産み、ヒナの誕生は7月上旬。
そして巣立ちは8月下旬。ひと月半ほどでヒナを育てあげてしまいます。
栄養価の高そうなローヤルゼリーで育てられたヒナは、
そのぶん成長も早いということなのでしょうか。
9月になると、その年生まれの若い鳥が、
海の向こうの越冬地へと集団で渡っていきます。
そもそもクロスズメバチは、
人間界でも「蜂の子」として珍重される特産品です。
その味は、スズメバチの仲間でもピカイチであるといわれています。
日本産のスズメバチでは、最も大きな規模の巣を作ることで知られ、
また、さまざまな昆虫類や哺乳類の死体などを餌とする、
ポピュラーな存在です。
それゆえに、ほぼ日本全国に分布するハチクマの主食として
選ばれているのかもしれません。ハチ業界の人びとにとって、
ハチクマはちょっと手ごわいライバルなのかもしれませんね。
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いまの季節、奥入瀬渓流にはトチノキの花蜜をもとめて、
養蜂家の方々が訪れています。
渓流沿いの道路から延びる目立たない横道は、
たいてい養蜂場へと通じています。
(期間中には入口にロープが張られています)
いつぞや、そんな養蜂広場で、ハチクマの姿を目にしました。
並べられた養蜂箱のあいだを、なにかがすたすた歩いているのです。
初めは、てっきり獣かと思いました。
おそらくはタヌキかアナグマであろう、と。
ところがあにはからんや、それはハチクマだったのです。
二本脚で、しかも結構な速さで地上を移動しています。
地中のハチの巣を掘り出せてしまえるだけに、
やはりその「脚力」は相当なもののようです。
立派な羽を持った鳥だというのに、
地上をワガモノ顔に歩きまわっている様子には、
ちょっとびっくりさせられました。
いったい、そんなところで何をしているのでしょうか。
もしや養蜂箱を荒らしているのでは?
聞くところによれば、ミツバチはしばしば巣を大きく作りすぎ、
箱からはみ出させてしまうそうです。
養蜂家の方々は、そういう「はみ出した巣の部分」を削り取って、
周辺に放置するので、
それを狙ってハチクマがまわりの森からやってくる、というのです。
ある報告では、わずか1カ月あまりで、
なんと30羽ものハチクマが養蜂場に現れたそうです。
しかも、かなり遠方からもやってきているとのことで、
実に興味深いエピソードです。
それはともかく、ハチクマはハチの巣を掘り起こす時に、
刺されるということはないのでしょうか。
実は、この点はいまだに解明されておりません。
大いなるナゾであります。
ハチの針の通らない、硬い皮膚をしているため、ともいわれます。
確かにハチクマの顔面ときたら、
なんだか爬虫類の鱗(うろこ)のような感じで、いかにも頑丈そう。
また、ハチの毒に免疫があるため。
さらには、ハチを寄せつけない独特の臭気を出すため、
という説もあります。
この「ハチクマの分泌するハチを忌避させる匂い」という考えは、
昆虫の専門家にも支持されているようです。
もし、この仮説が正しく、その成分が解明されれば、
人間にとってたいへん有益な、
スズメバチ忌避材ができるかもしれません。


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