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第27回 十和田湖のカワアイサ ー往くカモ、来るカモ(その1)ー

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  水ぬるむ春の十和田湖での夕暮れ、
  カワアイサを見かけました。
  あたたかみある柑橘色の光に彩られた湖上にたゆたう
  シルエットは、ことのほか優雅でした。

  秋になるとユーラシア大陸の北部から、
  日本各地の湖や河川に渡ってきて冬を越す水鳥です。
  九州以北で見られますが、やはり北方系の鳥らしく、
  飛来する数は北日本の方が多いようです。

  春を迎えると、生まれ故郷の北国へ帰っていきます。
  春の十和田湖では、この地で冬を越したもの、
  また、もっと南から少しずつ北上してきたものたちが、
  ゆっくり羽を休めていく姿が見られます。

  秋から冬にかけて日本に渡ってきて、
  春になると北国へ帰っていく鳥たちを「冬鳥」といいます。
  十和田湖は、ここで冬を越す彼らの避寒地であり、
  もしくは旅の御休み処でもあるというわけです。


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  カワアイサはカモの仲間です。
  ただ「アイサ」という、ちょっと変わった響きの
  名がつけられています。
  他にウミアイサ、ミコアイサなどの仲間がいますが、
  十和田湖でのおなじみといえばカワアイサです。

  アイサとは初め「愛沙」と書くのかな、と思っていました。
  ずいぶん洒落た名前だと感心していましたが、
  実は「秋沙」と表記されるのだということを知りました。
  いったいどういう意味なのでしょう。

   山の際(ま)に 渡る秋沙の行きて居む 
   その川の瀬に波立つなゆめ

  ──と、情感豊かに詠われたように、
  秋沙は万葉集にも登場する古い鳥名なのですが、
  その正確な語源はどうもさだかではないようです。

  秋早くに訪れるところから「秋早」(あきさ)と呼ばれ、
  やがてこれが転じてアイサになったというもの、
  逆に、秋が去ってから訪れる鳥、
  あるいは生まれ故郷では秋に去ることから
  「秋去」(あきさ)とされ、
  それら「あきさ」が転訛して「あいさ」になったもの
  と考えられています。上の説を較べてみる限りでは、
  「秋早」の意の方が、しっくりくる気がします。

  もっとも、アイサ類が他のカモ類よりも早くに渡来するとは、
  あまり思えないのですが。あるいはいにしえの日本では、
  そういう傾向が強かったのかも知れませんね。


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  冬から春の十和田湖ではオスのカワアイサが白い胸を反らせ、
  隣にいるメスに求愛しているのを目にすることがあります。
  渡りの季節でも仲良くペアで泳いでいます。
  既に相手が決まっているのです。
  これから二羽で危険と疲労を共にしながら、
  はるかな生まれ故郷へと戻り、子育てをはじめるのでしょう。

  でも、十和田湖畔で彼らの様子を見ていると、
  そのままここで繁殖をはじめるような気にもなってきます。
  海峡一本を隔てるだけの北海道では、
  カワアイサが少ないながらも、ちゃんと子育てをしています。
  ちょうどこの時季から繁殖に入る北海道に棲むものたちの環境と、
  十和田湖の持つ雰囲気には、なんとなく通じるものがあります。

  彼らは、湖や川のほとりにある森の樹洞に巣を構えます。
  糧を魚、家を大樹とする彼らは、
  魚の多い水域と、巨木のある森がミックスされた環境を好みます。
  カワアイサという鳥は、
  まさに森と湖のシンボルといえる存在ではないかと思えます。

  十和田湖の森と水が織りなす風景を眺めていると、
  彼らのすみかとしてはいたって申し分なさそうです。
  この湖にはかつて魚が豊富ではありませんでした。
  あるいはそこがネックだったのでしょうか。

  カワアイサの繁殖地は、道内の各地で見つかっています。
  十和田湖に似た環境の場所も多々あります。
  もしかすると、十和田湖にこのまま魚が増えてくれば、
  北方への渡りをやめて、この地で子育てをはじめる、
  そんな革新的なカワアイサ夫婦が、
  そのうちに登場することになるかも知れませんね。

(写真・文/河井大輔)