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第77回 カケスの春

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第77回 カケスの春.JPG


  まだ雪の残る早春のブナの森に、賑やかな声が響いています。
  「ギャア、ギャアー」とか「ジャア、ジャア」といったダミ声にまじって、
  時おり「クイーッ」「ミュー」という甘やかな声も聞こえてきます。
  カケスたちの「春の集会」が催されているのでしょう。

  声のする方を見ていると、ひらひら、ふわふわと、数羽の鳥たちが
  裸木のあいだを、漂うように飛びかっているのがわかります。
  黒い尾と腰の白い部分のコントラストが、遠目にもくっきりと
  鮮やかです。双眼鏡を使えば、羽の美しいコバルトブルーも
  はっきりと見てとることができました。

  白地に黒の胡麻塩頭の毛(=冠羽「かんう」といいます)を
  逆立ててみたり、白い腰の羽毛をふくらませてみたりしながら、
  互いにニラミあったり、絡みあったあり、追いかけっこをしてみたりと、
  ひっきりなしに騒いでいます。いやはやソーゾーしい限りです。
  しかし晩冬から早春、冬枯れの森に賑やかに響くこの騒ぎを
  耳にするたび「ようやく春の到来だ」と、しみじみ感じ入るのです。

  カケスは、カラスの仲間です。
  大きさはおおむねハトくらい。頭のサイズはハトより大きく見えます。
  ずんぐりむっくりの体型で、ごろんとした印象があります。
  一見、地味っぽく見えますが、たいへん美しい鳥だと思います。
  麗しい青い羽が讃えられることがほとんどなのですが、
  図鑑などで「ぶどう褐色」と表現される体の色も、実に素敵です。
  和菓子のような、しっとりと落ち着いた色あいを見せてくれます。

  カケスたちの「集会」は、早春の明るく、あたたかい日によく見られます。
  数羽から数十羽が1箇所に集まって、大きな声で鳴き交わします。
  発情したネコのような声、リズム感のある発声。
  どうにも形容のしようのない奇妙な声。さまざまな「音楽」で騒ぎます。
  スプリング・ギャザリング(=春の集まり)とも呼ばれる
  この「儀式」は、春が本番に近づくにつれ、次第に回数が増えていき、
  4月に入ると、ほぼ毎日のように開催されます。

  この奇妙なセレモニーには、いったいどのような意味があるのでしょう?
  この「儀式」のあと、カケスたちは一斉に巣造りに入ります。
  なので、これは結婚相手を見つけるための集団見合いであるとか、
  それぞれのテリトリー(なわばり)を決めるための談合であるとか、
  諸説あるようなのですが、はっきりしたことはわかっていません。
  何のための行動か、その真意はいまだナゾなのです。フシギですね。

  繁殖期にそれぞれが持つ「なわばり」は、ふつう「防衛範囲」と
  理解され、そこへ他個体や他種が侵入すると追い出されるのですが、
  カケスではあまりそういう行動が見られない、といわれます。
  アメリカでは、血縁関係にあるものが協同で繁殖するとの報告があり、
  あるいはそういうこととも関係するのかも知れません──とすれば、
  各親類縁者グループの「交流会」みたいなものなのでしょうか?
  夏の終わりにも似たような集会行動が見られるといわれるのですが、
  春ほどではないといいます。
  こちらはさしずめ「ご苦労さん会」でありましょうか。

  私はといえば、春のカケスたちの「集会」を目にするたび、
  いつも「魔女の宴」であるサバトを連想してしまいます。
  もちろん、春のうららかな陽ざしのもとで楽しく騒いでいる姿からは
  もっと明るく楽しげなイメージを連想しますが、なにせ凄い声です。
  妖しげな魔女のしわがれ声を、つい頭に浮かべてしまうのです。
  いちど、薄暮の森の中で突然この声に見舞われたことがありました。
  ドキリとしました。気分はほとんど『ブレアウイッチ』状態でした。
  (もっとも、あの映画、個人的にはサイテーでしたけど……)

  カケスの春は、にぎやかで、楽しげで、それでいて
  どこかちょっと神秘的な雰囲気すら漂わせているのです。

(写真・文/河井大輔)